サバイバー紀行(8月29日)

「あなたとの訳わからないあの日々に、私はどれほど救われたか」

※性暴力に関する記述があります。安全と感じられる場所でお読みください。※

 

十年前、加害者に自宅を知られていた私はもうそこに住み続けることができる心理状態ではなくて、焦る気持ちで荷造りをしていた。しかし時間と身体の感覚がない。そのため全然終わらない。途方に暮れていた。何故かそのタイミングでバイト仲間のKさんが「引っ越しするの?手伝うよー」と名乗り出てくれた。もともと全く親しい間柄ではなかったので、初めて自宅の場所を教えた。二人で雑談しながらダンボールに本を詰めたりしたら思いの外、作業が捗った。流れでそのまま一緒の布団で添い寝して夜が明けた。隣で眠っている人の身体を眺めて、私の身体はここにあったのか、生きてて良かったのかと思えた。また別の晩かな、私のベッドを引き取ってくれると言うので、透き通るような夜道の中を川を超えた先のKさんの部屋まで「重いね」と二人で担いだんだった。

 

今日十年ぶりにその時の話をされた。私はベッドを譲ったことを忘れてしまっていて、Kさんが「あれは夜逃げのようだった」と言うので「そうだね、訳わからなかったよね」と笑った。そして「あなたとの訳わからないあの日々に、私はどれほど救われたか」と添えた。気恥ずかしくて顔は見れなかったが。

再会は拍子抜けするくらい普通だった。過度に緊張もせず、美化もせず。普通に近況を話して散歩するだけ。幸せな時間だった。時差ありで、帰宅してから涙腺が緩む。愛する腐れ縁から電話がかかってきて、突然泣き出す私にびっくりしつつ再会できて良かったねと笑っていた。彼女の子どもがわたしの名前を覚えて、目が合うたびに名を呼んでくれた。

 

被害に遭った直後、深く信頼する人たちはわたしの取り乱すその語りをただ黙って頷いてくれた。わかりやすく怒るでも悲しむでも鼓舞するでもなく、ただ黙って受け止めてくれた。そのひとりが添い寝してくれたKさんで、もうひとりは彼女だった。

 

近々その二人を十年越しに引き会わせることが決まった。一生分の幸福を使い果たしたかもしれない。ほんとうに嬉しい。

 

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帰り道、清澄白河の通りには案山子がたくさん並んでいた。近所を散歩しただけなのに、この十年を総括して、その先に踏み出せたような旅だった。元気で生きていてほしい。今度はわたしが与える番なのだろう。とりあえず生きないといけないと思った。

 

3年ぶりくらいに啜ったカップラーメンと共に、葛西のビジネスホテルにて。