身の回りでも「ピルを飲み始めたけど、彼氏には秘密にしてる」と語る女性は一人や二人ではない。私自身も3年前までは、ピル使用中だと男性パートナーに話すのは止めておこうと思ったものである。それは男性陣が「彼女がピルを飲めば生でセックスできるってことだよね!?」「ビッチのイメージ」「男にとって都合がよすぎて最高」と膣内射精について興奮している場面に何度か遭遇したことが要因の一つだ。これと似たようなセリフをパートナーが呟いた際には、ショックを受けて別れを切り出したという知人もいるし、「話さなきゃよかった」と後悔したという声も上がる。
しかし、ピル→子宮内避妊具を選んだことを公言している今の私なら、「は?ゴムをつけないってことは性病リスク上がるじゃん!検査してから考えようよ。そもそもピルは男性都合じゃなくて女性の生活と性的選択を助けるための薬ってことわかってる?」と真面目な話題に切り替えて、ピルがどういう薬か説明して、それに対する反応を慎重に観察するだろう。自分の選択の意味をパートナーに(肉体の所有者はその人自身なので共感はできなくても)理解してほしいし、その上で信頼関係を築きたい。そして、避妊/性病/性暴力について二人で考えて選択できないのなら、セックスに没頭できるはずがないと思うからである(やるならやるで、安心しながら、没頭したい)。
そもそも、「生で中出し」つまり膣内射精に対し異様にテンションうなぎ上りの男性陣に対する違和感の正体はなんだったのかと、考えたこともなかったが、先日それが少し具体的になった。こちら、ズイショ仙人のブログを読んで、とにかく「ありがとう、ありがとう」と思った(笑)。面白さの中に潜む「ちょっとここは立ち止まらなけりゃあかんやろ」っていうツッコミをこういう形でしてくれる人がいる現実は、ネットで頻出するような「男ってやっぱりなぁ…。」という諦めとは、きっと対極にあるものだと思う。
更新されない知識が他人を傷つける
本来はピルは自分の身体をコントロールする上でとても役に立つし病気の治療に使うこともあるし避妊方法の手段としても真面目に語れる代物で、自分の人生に大事なアイテムなのでパートナーに隠すべきものでもないと思うけど、性知識の欠如やピルに対する偏見/AVファンタジーの強さがそれを阻む…。
— ハム太郎の夏物語 (@kmnym_) 2016年5月2日
性病検査がメジャーになって避妊方法の選択肢が多様になるといいし、ゴムの有無は各々の自由だと思うんだけど、中出しファンタジー信仰の根強いこの国では安易にゴム不要派と言えばセクハラ被害リスクが急上昇するので良識ある大人はゴムつけろ音頭を踊るしピル使用中と彼氏に言えない女子は増えていく
— ハム太郎の夏物語 (@kmnym_) 2016年5月2日
中出しできるの~?!テンション上がる!というノリで、AVファンタジーを押し付けられたくないからピル使用を彼氏に隠す女子というのは案外いるよね。自分の意志や体を軽視されている感じがして傷つくのだろう。中出し自体が悪なんじゃなくてその創作物を信仰する価値観に自分が潰されるというか…。
— ハム太郎の夏物語 (@kmnym_) 2016年5月2日
深夜、自慰のネタを探していると、AVに限らないけど、多量の「中出し」「孕ませ」といったジャンルの作品が現れる。どんなに過激な内容であれ、創作物が存在していること自体やそれを好むことは問題ないと思うし、自分の肉体も欲望も汚いものじゃないけれど、「大好きなエロい話」どまりの知識が更新されず、妊娠や性病を蔑ろにしたまま行動してしまうと、生身の人間を目の前にしたとき、思わぬ悲劇を生んでしまうのだよねー。彼氏に対して幻滅したくない、傷つきたくないからこそ、ピル使用やら生理の話は沈黙に限る、という女体ユーザーが一定数いるのも正直頷ける。
日本は海外と比べ、コンドーム避妊しか選択肢がないような状況であるために、ゴムをつけてセックスしましょうと良識ある大人に教えられる(現状、避妊方法*1の中でゴムは安価でコンビニ等でも手に入るため、現実的なアドバイスだとも思う)。反面教師のように、性病のリスクを置き去りにして「ゴムなしセックス」への幻想/期待も、創作品を介して過剰生産されているように思う。
例えば、女体主体の避妊を選択した場合、生でやってみたいと望むことは別に悪いことじゃない。しかし、無知のまま、好奇心や性幻想に基づく価値観が先行してしまって、彼女がなんでピルを飲んでいるのか・ピルにはどういう効果があるのかに対して無関心な姿勢は、パートナーとして幻滅されても仕方ない。避妊について選択肢を検討して、性病検査もした上でゴムを使わないカップルだって割といるのではないか(ゴムをつけないことが非難されやすいので言えないだけで)。どんな選択をするかは各々の自由だけれど、相手の意志を軽視しないこと(合意を取ること)、自分と相手の心身を危険/不快にしないような努力*2が大前提じゃないのかな(性的関係を孕んだ人間関係は、なんて面倒臭いのでしょう…)。
ピル=ビッチ(なので俺もヤれるかな)は超偏見だけど
ピルを活用する健やかビッチがいてもええじゃないか
ピルは病気の治療薬としても、月経痛やPMS*3予防としても、月経周期を安定させる手段としても役立ち、女体特有の苦痛を和らげる代物である。しかし、避妊のイメージが強く、かつビッチだと強調するような偏見もいまだ残っている。
ピル以前にビッチへの偏見は根強い。「だれにでも」股を開くんだよね?俺にもヤラせてくれるかも?という勘違いする人。肉体所有者であるビッチさんの意志を確認せず、コミュニケーションせずに性的言動をぶつける人。いや、どんなにエロくて性的奔放だとしても、だれとヤるかは本人が決めることだし、公共物扱いするなよと思う。そもそも、相手の属性に関係なく、関係性や状況を無視した性的言動は、合意を軽視した性的言動は、セクハラ/性暴力である(被害者が非処女/童貞であっても、風俗経験があっても、ビッチでも、たとえ被害者側から性的に誘ったのだとしても、結果、それを理由に暴力自体が軽視されて、自己責任だと詰られて、加害者擁護につながることはおかしい)という認識は、絶えず訴え続けたいなぁ。
ビッチ/ヤリチン自称者や、セックスワーカーに対しての性被害が軽く見積もられるのもおかしいから。自分の意思でセックスを好んだり、性労働を選ぶ事と、自分の意思に反して他者から体を触られる事は同線上にない。そもそも、処女/童貞かどうかで被害の重さをジャッジする外野もいて、萎える事は多い
— 意志の物語とハム太郎 (@kmnym_) 2016年1月22日
“「性的に挑発したとしてもそれと性行為への同意とは別問題」だと誰もが理解する必要があります。身体暴力がない限り、恋人や夫婦間なら多少の性的強要は許されるという考えも間違いです。「貢いだから、過去にも性行為をしたから、セクシーな服装だから、合意のはず」というのも間違った期待です。”
— 意志の物語とハム太郎 (@kmnym_) 2017年2月12日
これはセックスの話だけど、恋人/夫婦だろうと「常に合意が約束された関係性」はない。でも、満たされている時は不変を盲信して自己中心的になり易い。相手は別人格を持つ個という事実を受け入れ都度話し合って意思確認をしないと関係性は破綻する。https://t.co/r9J4dbemMl
— ハム太郎の夏物語 (@kmnym_) 2016年12月14日
毎度お世話になっています
まあ、とりあえず、お互い童貞/処女からの~生涯の性的パートナーは一人のみ!という例外を除き、性交経験があるのなら(オーラルのみ含む)性病検査に行っておきましょう。保健所は無料なのでおすすめ。外出する気力がなければ、郵送タイプの検査キッドもある。
29年6月追記:素晴らしい記事に出会いました
リスペクトしかないので是非みんな読んで!
性教育、伝えたいことはたくさんあるけど、まずは“しちゃいけない話”を決めちゃいませんか。という提案。|https://t.co/U5pkdkqPXm
— ハム太郎の夏物語 (@kmnym_) 2017年5月27日
良記事すぎて、涙出そうになる。
*1:日本とは異なり海外ではピルはお手軽価格だし、避妊方法にバリエーションがある。参考:間違った避妊の知識 | ラルーン
*2:厳密にいうと、性的接触において、危険/不快な状態の発生は完全には避けられないものだ。むしろ、トラブル発生を前提として、そこから関係性をどう維持/改善しようとするか、トラブルに対してどう責任を取り、どう身を守れるか、という過程こそが肝心